約1週間前に「ペンスキー・ポルシェ・モータースポーツチームのオーナーであり、ポルシェのレーシングファクトリーパートナーであるロジャー・ペンスキー氏がオーナーとなる公道を走ることが出来るポルシェ963が出てくるのかな」ということを書いていました。
ル・マン24時間レースにあわせて発表されるだろうとも噂されていたこちらのポルシェですが、まさにル・マン24時間レースを目前に噂の通りのPenske氏へのお車としてのポルシェ963が発表となりました。

先日のブログはこちら:公道を走ることが出来るポルシェ963 RSPは世界にたった1台となるPenske氏への車なのかな
発表されたポルシェは先日発表されていた通りの『ポルシェ963 RSP』。
このRSPが何だろう?と言われていたわけですが、やっぱりこれはPenske氏のイニシャルであったということで答え合わせをすることが出来ました。
ちなみにペンスキー氏は御年88歳とのこと。88歳にしてこのお車。凄いな(もちろん普段使いされるわけではありませんけど…^^)。

Porsche 963 RSPは963ハイパーカーの姉妹車
こちらの車の誕生までのお話、そしてこの車がどういったものなのかの説明が発表されていましたので見ていきたいと思います:
- IMSA選手権とWEC選手権を制覇したマシンをベースにした究極のワンオフモデルであるこのマシンは50年前の特別な917のデザインを忠実に踏襲
- 2025年6月6日に963RSPはその917と共にサルトサーキット近郊の路上でデビュー

- この車はポルシェAG、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ、ポルシェ・カーズ・ノース・アメリカのチームが、モータースポーツ界のレジェンドであるロジャー・ペンスキー氏と共同で作り上げた
- この車の963 RSPの『RSP』はロジャー・ペンスキー氏のイニシャル(ペンスキー氏の名前はミドルネームを入れるとイニシャルがRSPとなるRoger Seale Penske)

ツッフェンハウゼンからパリへ
- 1975年4月にポルシェ917 (シャシー30)が公道を走ることが出来る仕様となり今日までフランス国内で公道で走り続けている
- この公道を走ることが出来る917を作ったロッシ伯爵と同じアプローチで、公道走行車ではありながらも、まさに「レーシンガーそのもの」となる963を目指した
- レーシングカーとしてのカラーリングがラッピングにより施されている963とは異なり、963RSPにはこの種の車両としては初めてボディーカラーの「塗装」がされている
- 軽量化の為に極薄に成形されたカーボンファイバーとケプラー(Kevlar® )製のボディワークの特性上、この塗装作業は非常に難しい課題であった
- カラーはロッシ伯爵の917へのオマージュとしてマルティーニシルバー
- 独自に改造されたボディーワークと、ロッシ伯爵が50年前に採用したトリムセッティングにインスパイアされた特注のタンレザーとアルカンターラのインテリア

- 963RSPには以下のような専用のメカニカルおよびエレクトロニクスのセットアップが行われた:
- 車高の引き上げ、ダンパーのソフト化、ヘッドライトとテールライトの動作をロードカーに近づけるための制御ユニットへの再プログラム
- ホイールアーチを覆うボディーワークの改造
- ミシュランのウェットコンパウンドタイヤの採用
- ホーンの装着
- これらにより963RSPはフランス当局の特別許可と、ル・マン24時間レースを運営するAutomobile Club de l'Ouest (ACO)の支援により公道走行とナンバープレートの装着に必要な基準を満たした

- ペンスキー・コーポレーション会長のロジャー・ペンスキー氏は「私たちは1972年以来ポルシェと素晴らしい関係を築いてきた。特にポルシェ917/30は数々の勝利とチャンピオンシップを獲得し1975年にはMark Donohueがクローズドコースのスピード記録を樹立するなど、チーム・ペンスキーの歴史の中でも最も輝かしい時代の1つだった」と語る
- 963RSPはル・マン24時間レース期間中、サルトサーキットで一般公開され、その後はシュトゥットガルトに戻りポルシェミュージアムに展示される
- 2025年7月にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで917と共に展示される予定(ヒルクライムもするのだとか)
- 2025年8月にはカリフォルニアでのモントレー・カー・ウィークに出展予定

963プロジェクトの詳細
- このプロジェクトの始まりはポルシェ・カーズ・ノース・アメリカのTimo Resch氏(社長兼CEO)、ポルシェ・モータースポーツのThomas Laudenbach氏(副社長)、ファクトリーレーシングLMDhディレクターのUrs Kuratle氏がロードアトランタのトラックサイドで行ったミーティング中に生まれたコンセプトであった
- 思い描いたのは917にインスピレーションを受けたその偉業を963でも同じく再現するということ
- このコンセプトアイデアをロジャー・ペンスキー氏とポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのマネージングディレクターであるJonathan Diuguid氏に持ち込み、この話がさらに発展
- その後、ロジャーペンスキー氏がこの車の顧客として指名され、この963は彼のイニシャルであるRSPがモデル名につけられることとなった

デザインプロセス – 外観
- コンセプト決定後はツッフェンハウゼンのゾンダーヴンシュチームがアトランタのポルシェクラシックのゾンダーヴンシュチームと協力しアイデアを現実のものにしはじめた
- スタイルポルシェの特別プロジェクトディレクターであるGrant Larson氏と彼のデザイナーたちは1975年にロッシ伯爵が選択した変更点を参考に外装はシルバーとブラック、内装はタンレザーとアルカンターラの組み合わせにし、オリジナルに出来るだけ近い963を構想
- 塗装されたマルティーニシルバーはシュトゥットガルト-ツッフェンハウゼンのポルシェミュージアムが所蔵する記録に基づいて確認され、3層ラッカーが塗布された

- 963を917のフォルムに近づけるため963RSPのボディワークには変更が加えられた
- それには独自のフェンダーベントの生成が含まれており、それによってフロントとリアのフェンダーベントが開いた状態になっている
- ゾンダーヴンシュとポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのコラボによりこのベントは車両に適用する前にデジタルレンダリングされた
- この新しいデザインによりホイールウェル内の空気が排出される
- レースカーの要件であるリアウイング内のカーボンファイバー製ブランキングプレートは963RSPでは取り外された
- 車両のノーズには917と共通のディテールであるエナメル製のポルシェバッジが追加された

- 細部への変更点としてはタイヤウォールに1970年代風のミシュランロゴが追加され、OZレーシング鍛造ホイールにはレインスペックの18インチが装着された

デザインプロセス – インテリア
- 963RSPではソフトなタンレザーとアルカンターラのコンビネーションが特徴
- 快適性重視でカーボン製の一体型シートにはレザーが張られ、中央には柔らかなクッションが置かれている
- ヘッドレストはカーボンファイバー製バルクヘッドに固定式で取り付けられている
- エアコンも完備
- フットウェルのレッグクッション、ルーフライニング、ピラーはライトアルカンターラで再装飾され、ステアリングホイールはレザー仕上げ
- ポルシェのトラベルマグも安全に入れることができる取り外し可能な3Dプリント製のカップホルダーも完備^^

- ドライバーの隣には新しくトリムされたパネルがあり、使っていない時に車のPeltorヘッドセットとステアリングホイールを置く場所として利用できたり、車の始動と操作を補助するラップトップとペンスキー氏のカスタムカーボンヘルメットを置く場所としても利用可能 ※917公道バージョンのようにキーでのエンジン始動ではなくラップトップを使っての始動なのですね!
- インテリアの色は明らかに917へのオマージュであるがより繊細なデザイン要素もみられる
- ベンチレーションシステムのために特注されたエンドプレートが917のフラット12エンジン上部にあるファンのデザインを模したものだったりする
- ドアはレザーとアルカンターラで仕上げられており、片方のドアにはシャーシ番号と製造日、そして場所を示す合金製のプレートが取り付けられている

メカニカルな変更点
- 公道での使用に対応するため、車高は最大設定まで引き上げられている
- 一方でレーシングプロトタイプ用に設計された調整可能なマルチマティックDSSVダンパーはより快適な乗り心地を実現するために最も柔らかい設定となっている
- コントロールユニットは改造され、ウインカーの操作とヘッドライトの路面状況に合わせた調整が可能となった
- リチウムイオンバッテリーを搭載し電動のみでも走行可能なハイブリッドV8パワートレインは963 RSPでもレース仕様のチューニングのまま維持されているが、MGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)からの出力は公道走行に適したスムーズなパワー供給となるようマッピングが再調整されている
- パワートレインは一般的なガソリンスタンドにも対応できるように再マッピングされた(これは結構チームにとっても大きな取り組みとなったらしい)

最終仕上げ
- 963RSPにはボディーカラーにあわせたマルティーニシルバーのアクセントが施されたカスタムフィットのカーボン製クラッシュヘルメット、同色のアクセントがあしらわれたチェストを備えた特注のスナップオン製ツールセットなどが付属する
- 963 RSPは特別な条件のもとで現地の法規に従って公道を走ることが可能(実際にフランスでのデビュー時には『Wナンバー』と呼ばれるメーカー用ナンバープレートを使えるように改造されている)
- ただしこの車はポルシェの正式な市販モデルとして認可されたものではなく、あくまで唯一無二の特別なワンオフモデルとして位置づけられている

963のパワートレイン
- 963には2006~2008年にかけてアメリカン・ル・マンシリーズのLMP2クラスのすべてのタイトルを獲得したペンスキーが運営するRSスパイダーレースプログラムに由来する約680馬力の4.6リッターツインターボV8エンジンが搭載されている
- エンジンは3.4リッターから4.6リッターに拡大され、その後2013年にデビューした限定生産の918スパイダーロードカーに使用された
- エンジンのフラットクランクシャフトとショートストロークにより低いマウントポイントが可能になり、車両の重心が最適化されている
- 918スパイダーでは自然吸気形式のエンジンを使用していたが、963ではオランダのメーカーであるVan der Lee製の2つのターボチャージャーと組み合わせている
- これらのターボチャージャーは非常に控えめな過給圧を発生させ、エンジンの高温側に取り付けられておりスロットルレスポンスを最適化
- 全体として963のエンジン構成部品の約80%は918スパイダーと共通(918スパイダーはすでにハイブリッドシステムと連携するように設計されていた)

- 電動ブーストシステムの標準コンポーネントは、ボッシュ(モーター・ジェネレーター・ユニット、電子制御機器、ソフトウェア)とウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング(高電圧バッテリー)によって供給されている
- モーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)は後輪のブレーキング時の回生およびパワー出力を担っており、Xtrac製の7速シーケンシャルギアボックスと直接連携して作動
- このMGUは内燃エンジンとギアボックスの間にあるベルハウジング内に設置されている

- ハイブリッドの電気システム全体は最大800ボルトを発生
- ユニフォームバッテリーは1.35kWhのエネルギー容量を持ち、加速時にはいつでも使用可能
- 出力は30〜50kWが短時間のブーストとして利用できるが、これはパワートレイン全体の総出力を変化させるものではない
- MGUの推進力が加わるとそれに合わせて内燃エンジンの出力(BoPに応じて8,000回転以上に達することもある)が自動的に抑制される

ちなみにここからは公式発表ではありませんが、ポルシェがオートカー誌に語られたことによると、今回のこの963RSPにかかった費用は500万ユーロ前後(現在の為替で約8.2億円前後)と言われているようです。

さらには現時点においてはこの車は世界中に1台限りのものとなっているものの、依頼があればもう1台作る可能性もあるとかないとか…のようですのでご興味ある方は是非^^
出典:
◆(公式)Race to the road: Introducing the Porsche 963 RSP
◆Porsche reveals road-legal version of 963 Le Mans racer
◆963 RSP Revealed: Meet Porsche's Street-Legal Le Mans Hypercar
◆Porsche Built A One-Off Street-Legal 963 Hypercar For 88-Year-Old Roger Penske
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◆公道仕様のポルシェ917誕生から50年目、ポルシェ963でも公道を走るモデルが発表されるかも