新型スポーツカー、さらなる希少性、そして収益性の向上
2026年10月7日に開催されたキャピタル・マーケットデー(Capital Markets Day)において、ポルシェが中期的な目標に焦点を当てた戦略「Sportwagenschmiede '35」を発表。
これは2026年6月の株主総会などで「Strategy 2035 (ストラテジー2035)」と呼ばれてきた経営戦略を具体化したものです。
ポルシェは新製品と新技術によってスポーツカーとしてのアイデンティティをさらに強化・拡大することを目指し、製品ポートフォリオにおける価格・販売面でのポジショニング改善に加え、コスト削減プログラムと、より効率的で機敏な組織体制によって資本集約度を低減しながら、魅力的な収益性と純キャッシュフローマージンを実現していくとのことです。

Sportwagenschmiede '35とは
今回ポルシェが発表した戦略的再編は『Sportwagenschmiede '35』と呼ばれるもの。
これの包括的な目標は、最も魅力的なスポーツカーメーカーの1つとしてのポルシェの地位を強化すること。
その基盤となるのが、ブランド独自のポジショニングということで、スポーティなラグジュアリーと、スポーティなハイエンドプレミアムセグメントの両方に対応する製品により、ポルシェは自動車市場の最上位で高い収益を上げ、規模のメリットも享受することを期待。
その際には今後も「量より価値(Value over Volume)」の原則に基づいて事業を進める方針。
ポルシェは、よりスリムで迅速かつ柔軟な組織と効率的なプロセスを組み合わせることで損益分岐点を大幅に引き下げ、販売台数が20万台未満でも損益分岐点に到達できる体質を目指していくとのことです。
中期的な目標としては、グループ全体の売上高営業利益率を10~15%、自動車事業の純キャッシュフローマージンを9~12%にすることを目指し、長期的な戦略目標では、グループ全体の売上高営業利益率を15%、自動車事業の純キャッシュフローマージンを12%とすることとされています。
ポルシェAGのCEOミヒャエル・ライターズ(Michael Leiters)氏いわく:
- ポルシェは『Sportwagenschmiede '35』戦略に基づき、明確な計画を策定している
- 最終目標は全モデルラインにおいて、特に高収益セグメントにおける魅力的な新モデルを投入することで、当社独自のスポーツカーブランドをさらに強化すること
- この戦略はポルシェの効率性、生産性、収益性を大幅に向上させるための基盤を3段階で構築する
- 現時点ではコスト削減と財務体質の強化に重点を置いており、既にいくつかの重要なマイルストーンを達成している
- 私たちの戦略は中期的な目標達成に重点を置き、施策とその成果が可能な限り早期に実現するよう努めている
- 『Sportwagenschmiede』という言葉は、ポルシェが将来目指すすべてを体現しているという意図から選んだ
- それはあらゆるセグメントで最もスポーティな車両を提供するというポルシェの志だけでなく、職人技、地に足の着いた思考、そして起業家精神にあふれたビジネス重視の行動も含まれる
- ポルシェの目標は、顧客、従業員、パートナー、投資家といったすべてのステークホルダーにとって魅力的な存在となることである
すでに達成されたことといえば、従業員代表との間で将来計画パッケージが合意されたことが挙げられ、これには社会的に責任ある形で9,000人規模の人員削減を行うことに加え、2035年まで中核従業員の雇用を確保するという約束も含まれています。
また、中核事業への注力の一環として主要な措置が既に実施されていて、これにはリマックとブガッティ・リマックの株式売却、 MHPコンサルティング子会社の売却契約の締結、セルフォース・グループ、ポルシェeBikeパフォーマンス、セティテックの開発・生産活動の計画的な閉鎖など。
さらに製品ラインナップにおいては、完全電気自動車の718ボクスターと718ケイマンが登場し、初めて通年生産となる2028年には販売を支えることが期待されています。
また2028年にはポルシェが「Bセグメント」と位置づける新型SUVも発表され、現行の完全電気自動車マカンと並行して販売される予定。
内燃機関とプラグインハイブリッドのパワートレインを搭載したこの新型モデルは、2028年の量産開始後、2029年には販売と収益に大きく貢献することが期待されているとのことです。
その後、特に利益率の高いDセグメントとEセグメントを中心にさらなる新製品投入が予定されていて、収益のさらなる向上が見込まれるとも言われています。
さらに2026年10月15日には、将来のミッドシップ・スーパースポーツカー向けプラットフォームの可能性を示すプレビューが公開される予定。
すでにポルシェは「Mission S (ミッションS)」として、その一部を公開されています。
今回、この『Sportwagenschmiede '35』の戦略が5つの章に分けて概説されましたので、それぞれの主要な内容を見ていきたいと思います。
5つの章は、ブランドと顧客(Brand & Customer)、製品と技術(Products & Technologies)、企業と事業運営(Enterprise & Operations) 、イネーブラー(Enabler)、そして財務目標(Financial Ambitions)となっています。
Brand & Customer:ブランドと顧客

ポルシェはスポーツカーブランドとしてのアイデンティティをさらに強化、その過程では「量より価値」という基本理念を忠実に守り続けている。
品質は製品だけでなくサービスにおいてもポルシェの経済的成功に不可欠な基盤であり、それこそが顧客に直接響くものだからである。
- ポルシェブランドは、特にデザイン、高級感、パフォーマンス、伝統、そしてドライビングプレジャーによって特徴づけられる
- これらの特質がポルシェ独自の地位の基盤となっている
- 他のどのメーカーとも異なり、スポーティなハイエンドプレミアムとスポーティなラグジュアリーという2つのセグメントを繋ぐ独自のポジショニングを確立している
- このポジショニングを継続的に発展させることで、顧客にとって魅力的なブランドへの入り口を提供し続けるとともに、より高級で利益率の高いセグメントへと的を絞って拡大していくことを目指す
- カスタマイズオプションの拡充や高価格帯セグメントにおける製品ラインナップの拡大などを通じ、ブランドイメージの向上を図る
- これにより中期的に最上位モデルの平均販売価格を約20%引き上げ、それに見合った製品価値の向上を図りたいと考えている
- 中期的に車両1台あたりのオプション収益を大幅に増加させることを目標に、カスタマイズオプションの提供を体系的に拡大していく方針
- 「Sonderwunsch(ゾンダーヴンシュ)」プログラムを通じて、高度にパーソナライズされた車両ラインナップを拡充していく計画
- 中期的にこの事業からの売上を6倍に増やすことを目指しており、これによりブランドの魅力と希少性をさらに高めることが期待される
- 今後ポルシェは「スポーツカーの本拠地(Home of Sports Cars)」という包括的な名称のもと、パフォーマンス(マンタイを含む)、エクスクルーシブネス(ゾンダーヴンシュおよびエクスクルーシブ・マニュファクチャー)、ヘリテージという3つの分野における活動を統合していく
- その中でも特に注目すべきは定評のあるゾンダーヴンシュ・プログラムであり、これをさらに拡大していく予定
- この一環として、ポルシェはマンタイ・レーシングGmbHへの出資比率を67%に引き上げ、パフォーマンス事業を強化する
- これによりマンタイとの良好な協力関係がさらに深まり、共同事業はパフォーマンスキットや特別なサーキット体験から、限定生産セグメントにおける完全な車両コンセプトまで、さらに拡大していく予定
- さらに品質向上への取り組みを通じて、顧客が感じる製品とサービスの品質をさらに向上させると同時に、中期的に保証費用を最大45%削減するという2つの目標を達成したいと考えている
Products & Technologies:製品と技術

ポルシェの目標は自社の車両をさらに希少で魅力的なものにすること。
そのため、モデルバリエーションの数を精査するとともに、製品ポートフォリオをより魅力的なハイエンドセグメントへと集中させていく方針。
明確な目標は参入するすべてのセグメントにおいて最もスポーティな車両を提供することであり、同時にすべてのモデルラインで911のDNAをより強く印象づけることである。
- ポートフォリオの集中化と効率性の向上:ポルシェはモデルバリエーションを約20%削減することで、ポートフォリオの複雑さを軽減する
- これにより中期的にモデルバリエーションごとの販売台数が約30%増加すると見込まれている
- 高収益のD/Eセグメントへのシフト:より上位で安定したD/Eセグメントにおける存在感を強化したいと考えており、中期的にポートフォリオ全体に占めるD/Eセグメントのモデル比率を現在より約45%引き上げることを目指す
- より高級なフラッグシップモデルと派生モデル:象徴的な911の上位に位置するモデルラインを実現するミッドシップエンジンのスーパースポーツカープラットフォームの開発を発表
- さらにDセグメントにおける911のラインナップは、感情に訴えかける要素の強い911派生モデルによって強化される予定
- また、カイエンの上位に位置するDセグメントのSUVの可能性も模索しており、これらはすべて製品ラインナップの魅力、希少性、そして収益性を高めることを目的としている
- 極めて魅力的な製品ラインナップ:ポルシェは2030年までに毎年少なくとも1つのブランドを象徴する新製品を発売する計画
- 既存モデルライン全体にわたる製品改良と相まって、これはこれまで以上にエクスクルーシブで感動的、そして紛れもなくポルシェならではのスポーツカー体験を体現する製品ラインナップの基盤となる
- 内燃機関、プラグインハイブリッド、完全電気自動車という3本立てのパワートレイン戦略を堅持し、顧客重視の姿勢をさらに強化しながらこの戦略をさらに発展させていく
- ポルシェはブランドを象徴する内燃機関/プラグインハイブリッド車(PHEV)に加え、次世代バッテリー技術への投資を発表
- ブランドを象徴するテクノロジーにより、ポルシェが属するあらゆるセグメントにおいて最もスポーティな車を実現:ポルシェは2ドアおよび4ドアの全モデルラインとすべてのパワートレインコンセプトにおいて、スポーツカーのDNAを強化している
- 強固なパートナーシップに基づく堅牢なプラットフォーム戦略:ポルシェはPPEおよびPPCプラットフォームの活用を通じて、アウディとの協業を強化している
- これにより開発リソースをより効率的に活用できるとともに、ブランド固有の技術と機能によって各ブランドの独自性を維持することが可能になる
Enterprise & Operations:エンタープライズ&オペレーション

ここにある中期目標はポルシェの企業価値創造に関するもの。ポルシェは組織とプロセスをより迅速、柔軟、かつ生産的にすることで、損益分岐点を引き下げ、より強靭な企業体質を構築する。
また開発期間を短縮し、調達における相乗効果を活用、さらに生産コストを削減し、販売構造を最適化する。
- 将来のモデルラインの開発コストを最大20%削減することを目指す
- これは主に開発期間の大幅な短縮、社内生産能力の拡大、よりモジュール化された開発プロセスの導入、そしてモデルライン全体の複雑さの軽減によって達成される予定
- 子会社のポルシェ・エンジニアリングとポルシェ・デジタルを統合し「ポルシェ・テクノロジーズ」とする
- この合併はポルシェのグローバルな開発能力を強化し、グローバルな専門知識をより低コストでさらに有効活用することを目的としている
- 中期的に生産部門の人件費を最大30%削減する計画
- さらに工程の最適化、生産性を重視した製品設計、同一生産ラインでの複数モデルの柔軟な生産によって、さらなるコスト削減の可能性が生まれる
- 販売・流通コストはより効率的な組織体制の構築などを通じて、中期的に20%削減される予定
- 具体的には販売地域を5地域から4地域に削減すること、よりコスト効率の高い販売プロセスを導入すること、販売代理店および販売組織の効率性を向上させることなどが挙げられる
- 包括的な材料コスト削減プログラムは、新型車両プロジェクトにおける個々の材料コストを、従来計画と比較して約10%削減することを目的としている
- これは特に共通部品の割合を増やし、ブランド差別化につながる範囲に注力し、パートナーおよびグループネットワーク内での相乗効果を高めることによって達成される
Enabler:イネーブラー

実現要因は戦略「Sportwagenschmiede '35」の3つの柱の基盤となるものである。
フューチャーパッケージはここで重要な役割を果たし、そこで合意された措置は人件費の削減と生産性の向上に役立つ。
効率的な経営体制と迅速な意思決定は企業の俊敏性と効率性を高めることを目的としており、この点においてポルシェはとりわけ以下のことを計画している。
- 管理職のポストは中期的に40%削減される予定
- 全体として直接部門と間接部門の両方の従業員数は、中期的に25%削減される予定であり、戦略目標は30%削減である
- さらにフューチャーパッケージの一環として講じられる措置により、人件費は約10%削減される見込み
- ポルシェは業績、個人の責任感、そして組織全体の成功への貢献を評価する
- そのためボーナスや特別手当は会社の財務的な成功に対する個人の貢献度とより密接に連動する
- さらに2028年に従業員持株制度を導入することを委員会に提案する予定
Financial ambitions:経済的な野望
ポルシェは「Sportwagenschmiede '35」により競争力を強化し「量より価値」に重点を置き、資本効率とキャッシュ創出をさらに向上させることを目指している。
ポルシェの目標は売上高の伸びが販売台数の伸びを上回り、利益の伸びが売上高の伸びを上回り、さらにキャッシュ創出をそれ以上のペースで伸ばしていくことである。
収益性とキャッシュ創出の目標とする改善は、車両1台あたりの価値の向上、より魅力的な製品構成、そして持続的に効率的なコストと資本基盤に基づいている。
中長期的な戦略的財務目標は、これらの優先事項の直接的な結果である
- 「Sportwagenschmiede '35」戦略はポルシェの収益性、資本効率、キャッシュ創出を推進している
- 中期的にグループ全体の売上高営業利益率を10~15%にするという目標を改めて表明する
- さらに中期的に自動車事業の純キャッシュフロー率を9~12%にすることを目標に掲げた
- これは既に判明しているマイナス要因を考慮した堅実な計画に加え、収益性の向上と資本集約度の低減を組み合わせることで、キャッシュコンバージョン率を構造的に改善するものである
- これらの目標の上限に到達するには、より良好なマクロ経済、地政学的、および規制環境、あるいはさらなる価値創出施策を成功させることが必要となる
- グループ全体の売上高に関しては、中期的に410億ユーロから450億ユーロを目指している
- 長期的な戦略目標として、グループ全体の売上高営業利益率15%、自動車事業の純キャッシュフローマージン12%を目指している
- 潤沢なキャッシュフローは中核事業への投資、必要に応じた追加の年金資金拠出によるバランスシートの強化、そして株主への魅力的な配当提供といった、戦略的および財務的な柔軟性をさらに高める
- 配当方針は連結税引後純利益の50%以上を配当性向とすることを目標としている
- 「Sportwagenschmiede '35」戦略は、ポルシェの構造的な強靭性を高めることを目的としている
- 損益分岐点は、販売台数20万台未満で達成される見込み
- これは中国市場における非常に控えめな予測に基づいている
- 自動車事業の売上高の15~20%を目標とした純流動性を確保することで、強固な財務体質を維持しようとしている
- 2026年に投資がピークを迎えると予想され、その後、研究開発への投資と支出は中期的に大幅に減少すると見込まれる
- その目的は単に投資水準を下げるだけでなく、より焦点を絞ったアプローチと、より厳格な支出規律を実現することにある
…というわけで、今回発表された「Sportwagenschmiede '35」の内容をざっと見てきましたが、やっぱりValue over Volume(量より価値)という、販売台数を増やすのではなく、ポルシェらしさをより強く打ち出した魅力的で希少性の高いモデルの投入で、1台あたりの価値を高めながら収益性を向上させていくという方向性を徹底していくということがよくわかりました。
かといって、ただ「高くすれば良い」にならずに「これにはこれだけの対価を払う価値があるよね」という『ポルシェのValue』になるといいなと思います。
今後発表される911の上に位置するスーパースポーツカーだったり、より特別な911の派生モデル、718EVや新たなSUVなどの登場も楽しみにしたいところです^^
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出典: (公式)Porsche presents new strategy through to 2035
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