#GetCreativeWithPorsche
外出自粛期間の間に、何かクリエイティブになれるようにとポルシェがシリーズで色々なクラスを提供してくれているこの「Get Creative With Porsche」。
第1回目は車の撮影方法についてでしたが、第2回目の今回は車のデザインについて。
…というより、描き方の例に出してくれているのがポルシェ911なので、どちらかというとポルシェ911の描き方ともいえるかも^^
ポルシェのデザイン責任者であるMichael Mauer氏による車のスケッチ講座
今回のクラスを教えてくれているのは、ポルシェのデザイン部門のトップを務めているMichael Mauer氏。
2004年からポルシェのデザインを担当している58歳の彼は、とにかくいつでもノートを持ち歩いているそうで、会議中でもなんでも、常に何かを描いている(または書いている)そう。
彼の奥様ももう呆れているとのことで、とにかく朝食を食べている間でさえ、スケッチをしていて、そうすることを彼自身ももう止められないのだとか。
それは、うーん、凄い^^
デザイナーとして、色々な問題についてはスケッチすることで解決することができます、とMichael氏。
クレイモデルであったり、VRモデルであったりする車のデザインを確認することがある際に「ちょっとルーフラインが低いかも?」とか、そのデザインを見て「何かが違う」と思うことがあった時には、とにかくその車の細部についてのスケッチをして、その「何か違う」を解決していくのだそうです。
ハッピー・アクシデント
彼がDoug Chiang氏(スターウォーズのデザイナー)に出会った時、Chiang氏が「ハッピー・アクシデント」という言葉を使っていたことがあり、その言葉がとても好きになったということが書かれていました。
その『ハッピー・アクシデント』というのは、自分がいくつものデザインスケッチをしている時、ふと自分が描いたものが「あ、なにか出来上がってきている」と自分で偶然気づくような、そういった幸せなアクシデントのことを指すようです。
ポルシェ・タイカンのデザインの始まりはハッピーな誤解から
このハッピーアクシデントの代表的なものが、まさにポルシェ・タイカン。
ポルシェ・タイカンのデザインというのは、もともとMauer氏が、ポルシェ918のテクニカルスケッチを見た時に、それを新しい車のデザイン・アイデアかと誤解し、そこからがタイカンのデザインが育っていったとのことなのです。
そんなこともあるのですね~!
それはある日、若いデザイナーのデスクの横を通った時に、その彼が描いていた918のラフなスケッチを見て「わ、4ドアの918っていうアイデア、なかなかいいね!」って思ったのだそう。
それまでMauer氏は、スーパースポーツカーには2シーターしかありえないと思っていたわけですが、この若いデザイナーのラフ・スケッチのリアのドアのラインを指さしながら「今、自分たちの前に、未来の次の世代のスーパースポーツカーがいる」と彼に伝えたそうです。
そう言われた若いデザイナーは「いやいやいや」とすぐさま否定。
なぜなら、彼がラフスケッチに書いていたラインは、918のクレイモデルを作っている人に「この辺りをもうちょっと表面処理してほしい」と指示する為のラインであっただけであって、4ドアを表すものではなかったのです。
でも、それを見たMauer氏は、そのラインが「リアのドアのライン」と勘違いした、と。
その時には気づかなかったそうですが、まさにこの時の「勘違い」が、タイカンのデザインが始まった瞬間であったそうです。
その後、『スーパースポーツカーなのに4シート』というアイデアを発展させていき、さらに時を経て、ポルシェのフル電気自動車についての話し合いが始まった時、Mauer氏が以前勘違いした、918のラフスケッチのアイデアに戻ってきたとのこと。
まさにこれが「ハッピーアクシデント」。
今でもタイカンを見るたびに、彼はこのハッピーアクシデントの瞬間を思い出すそうです。
ポルシェのデザインはすでに2030年を見据えている
さて、そんなMauer氏と彼のチーム。
すでに2030年の時点でのモビリティがどうなっているのかを見据えた2世代後の車のデザインに取り組んでいたそうなのですが(それも凄い話!)、今はこのコロナウィルスの関係で色々な動きを制限されたことから、ひとまずその取り組みよりも、今回は彼が培ってきた技やコツを伝授して下さるとのこと。
コロナウィルスによる今の現状はまったくもって嬉しくないことなわけですが、でも、そういう今だからこそ、ポルシェのデザインをずっと担当されてきた責任者の方から直々にポルシェの描き方を教えてもらえるので、大変な状況のなかでも、こういう機会を用意して頂けることはとても嬉しく思います。
このような機会を出し続けてくれるポルシェには本当に感謝です。
Michael Mauer氏がシェアするポルシェの描き方のコツ
Mauer氏いわく、車のスケッチをする時に最も重要となるのは、その形を「3次元でとらえること」。
さらに場合によっては、実物よりももっと強調し、誇張してとらえる必要がある、と。
戯画(風刺画)を思い浮かべてみると、鼻が誇張されたり、それが極端に大きかったり長かったり描かれているものを見て、すぐにそれが誰の似顔絵であるかがわかったりするわけです。
実際には、そのように誇張されているような、大きかったり、長かったりする鼻があるわけではないのに。
でもそうやって特徴的なところを誇張することで、人はよりその人物を認識しやすくなったりするわけで、これが車のスケッチにもいえると思えることなのだそうです。
例えばホイールを少し大きめに描いてみるとか、その車に持たせたいキャラクターを視覚化してみるとか。
時々、彼は車の歴史からその原型のスケッチをすることもあるそう。
例えば、ランドローバーのディフェンダーについて考えたりすることもあり、その時考えるのは、色や細部についてを描写しない場合、たった2本、3本、いや4本のラインがその車を定義するほどの特徴は何か?と。
車には、非常にシンプルなものもあれば、複雑なものも。複雑な車の場合、それほど強いアイデンティティを持っていないそうです。
車自体に強いアイデンティティがない場合、そのデザインによってブランド・アイデンティティを作りあげることもまた難しいことなのだそう。
ポルシェ911のスケッチの仕方
車のデザインをする時に、その車のキーとなるラインが何なのかを理解することが重要…ということで、ここからはポルシェ911をスケッチする段階について説明して下さいます。
では、Mauer氏が語って下さってたことを見ていきたいと思います^^。
Sketch 1
- もし10人の自動車デザイナーに、車のスケッチのプロセスについて説明するように聞いたら、たぶん5つの違ったアプローチを知ることになる。
- デザイナーによってはホイールからスケッチを始める人もいれば、フロントホイールから始めて、そのまま車のフロントを描き始め、そのあとにリアのホイールを描く人もいる。
- どのように描き始めるのかは、それぞれの人によるので好きに始めて良いと思うが、私は必ず2つのホイールを描くことから始めている。
- なぜなら、車を描く時の課題の1つとして、ホイールベースと正しいプロポーションを定義する必要があるから。よって、どこがリアのホイールがあるべき場所なのかを知っておく必要がある。
- スケッチを続けていく上でリアのホイールの位置がちょっと違うと気づき、消してまた最初から始めることもある。
- ホイールを最初に描く時には、ただ単に2つの丸い円を描くだけでも良いし、もう少し詳細を描いてもOK。例えば、この場合、ただの円に、5本スポークのホイールを描くことから始めてみた↓
Sketch 2
- ホイールを描き終えたら、次のステップは車を地上に置くこと。つまりは前と後ろのホイールの間に線を描く。
- ここからは、車のアウトラインの作成に入る。デザイナーとエンジニアは「Yゼロ・セクション」について語るが、基本的にこれは車のシルエットのことを意味している。
- ポルシェ911の場合は非常にアイコニックである。場合によっては、車のシルエットとホイールベースが合わず、リアホイールの位置をずらさなければいけなくなることも。もちろん、そうなっても問題なく、そうやって位置の修正をする為に消しゴムを使う!
Sketch 3
- ちょっとずつ詳細を付け加えていく。デザイナーは窓のことを「DLO」と呼ぶことがあるが、これはDay Light Openingの略。なぜこう呼ぶかは…たぶん、他の人達が話の内容を理解できないようにデザイナー同志が会話できるよう考案されたのでは?
って、バラしちゃっていいのかな^^?もうこれで、一般の人たちもDLOが車の窓のことを指しているってわかっちゃったのですけど~!!
- ポルシェ911の窓(DLO)は、カイエンやパナメーラとは違う、非常に象徴的なもの。まずはそれを描いて、その後、フロントヘッドライト、そしてリアエンドへと続く。
- これが、リアバンパーとリアライトがスケッチに付け加えられた状態↓
Sketch 4
- 車のスケッチをするのは、レイヤーをどんどん追加していくということ…ゆっくりと丁寧に詳細を付け加えていく。
- 1番の課題は常に「スケッチすることをやめること」。『少ないほど多い(Less is more)』という原則を適用すると、そのスケッチはより良くなる場合がある。
- この段階で、ヘッドライトは楕円形に。そして、フロント下部のエアインテークが追加され、ドアの下部も形になってきている。
- バンパー下部のエアアウトレットとリアフェンダーのディーテールに注目してほしい。リア・ショルダーにより力強い感じを出そうと描いている。
- そしてこの段階で、ホイールとホイールの間のベルトラインの下に、しっかりとしたラインが入っている。
- 前のステップにはない、このしっかりしたサイドのラインはホイール間により立体的な感じを与える。
- このラインがリアのホイールに近づくにつれ、下がっているのは偶然ではなく、意図的。
- これは実際の車のラインが下がっているというわけではないが、車のサイドを見た時に実際に人がそれをどう見えるを視覚化している。
- ポルシェ911を上から見た場合、リアトラックは少し幅広くなっていて、それをこのかすかなラインが表している。
Sketch 5
- この段階でさらに詳細を追加していくのがわかるかと。ドアハンドルが追加され、いくつかのラインは太くなり、強調すべきところ、またはするべきではないところの差をつけていっている。
- とにかく3次元の感じを作りあげる為ことが大事。
- 可能であれば、自分の車を素敵な背景で写真を撮ってみてほしい。そうすることで、車の表面のポジティブとネガティブなラインを見て取れると思う。
- それらの線をスケッチに真似して取り入れることで、スケッチをより良くすることが出来る。
Sketch 6
- 最初の5つのスケッチはラインだったが、ここからはコントラストと影を加えていく。
- 光を反射させている印象をつけたいので、まだここでは色はつけていない。
- 車の写真を良く見て、ハイライトされている部分と影になっている部分を確認する。
- 第1回目の#GetCreativeWithPorscheシリーズで、Richard Pardon氏がいかに光が車のデザインを見せるのに重要かを語られていたが、まさにここではそれを今、スケッチで表現しようとしているということ。
Sketch 7
- 次のステップはとても楽しいパート。ここから色をつけていく。
- フォトショップで作業をするとしたら、レイヤーを追加していく感じ。
- 車の上部分のブルーは青い空を反映しているが、暗くなっている線より下部分は床(フロア)を反映している。
- これにより、車が地面に接地している印象を与える。
- ちなみにフォトショップを使う必要はなく(実は私もフォトショップを使うのはあまり上手ではない…)、水彩絵の具やクレヨンを使ってみると良い。
- そもそも私がミーティング中にスケッチする時は、だいたい紙と鉛筆しか持っていないし。
Sketch 8
- それぞれのデザイナーはガラスの描き方にそれぞれ独自の方法を使うが、私はこの段階ではガラスと、ホイールは黒く塗ってしまう。次のステップでハイライトを加えることも出来る。
- 私はだいたいサムネイルサイズでのスケッチをする。あなたが描いてみる時も、サムネイルサイズで描いてみると、色々やりやすいのでお勧め。
Sketch 9
- この段階でDLO(窓)を考える。サイドにある窓は2つに分割され、上部分は黒く、そして下部分はもう少し明るめの色に。これにより、曲がっている部分があるという印象を表現することが出来る。
- 古い車の場合、窓ガラスは完全にまっすぐであったが、今時の車の窓にはカーブがある。このカーブを色に微妙な変化をつけることで表現できる。
- レンダリングの段階では、鉛筆でのスケッチから、よりもっと洗練された描画へと変えていく。
Sketch 10
- 紙に描いている時は、1次元である。そこに色や影を使って、最終的な3次元の車を表現しなければならない。もう1度、撮影した車の写真を見て下さい。
- ガラス越しに見える部分、ボディワークが光を反射させている部分、これらは車をどこに停めていたかによっても変化するが、影が車のどの部分にどう表れるかを知るのにとても役立つ。
- ここでは、白色を使ってキーとなるエリアを出していき、またライトとキャリパーに少し色を付けている。
- ステアリングを描き込むことを検討すべき段階でもある。もしかしたら座席なども見えるかもしれない。
- 「描いたスケッチは保管するように」
- 過去に描かれたスケッチを見返すのは、なかなか楽しく、そのスケッチを描いた時に、会議に参加中だったか、その会議は面白いものだったか、またはその会議内容は自分の部署との関連性があまりなかったのか、予算についての話し合いだったのか…などがすぐわかる(笑)。
- デザインは常に試行錯誤の繰り返しであることから、私は誰もにまずは鉛筆を手にとり、とにかく、やってみることを勧めている。
…う~ん。
と、色々と教えて頂きましたが、これら1つ1つの順序を追って、ポルシェ911のスケッチを進めていったとしても、私がいきなりMauerさんと同じようなポルシェ911を最終的に描けるとは到底思えません^^
こういったコツを教えて頂き、それらを念頭に置きながらも、やはりあとは「とにかく描くのみ」の繰り返しが、こういった素敵なポルシェ911のデザイン画を描けるようになる道のりなのだと思います。
何事も努力と経験が必要!
せっかく外出自粛で時間がある今なので、私も基礎からちょっとずつポルシェ911のスケッチの練習でもしてみたいと思います^^
出典(すべて公式):
◆#GetCreativeWithPorsche: Automotive design
◆“The Taycan’s proportions are unique”
◆Porsche and Lucasfilm jointly design a fantasy starship
◆“Incredibly modern”
#GetCreativeWithPorsche
第1回:ポルシェ(車)の撮影方法 (Richard Pardon氏)
第2回:自動車のデザイン:ポルシェ911の描き方
第3回:ポルシェ:車の洗い方
第4回:(原文)Keeping fit with Mark Webber
第5回:車の描き方(ペイント)
第6回:(原文)ロードトリップのプランの仕方(Planning road trips)
第7回:レゴでポルシェの象徴的なシーンを再現する
第8回:車の撮影の仕方 (filming cars)
第9回:eスポーツのシムレーサーになる方法