市販モデルとしては存在しない993型911スピードスター
空冷時代のポルシェについて相変らず私はまったく詳しくないわけなのですが、今回も「へ~、そうだったの」と思えたことがありました。
それが993型のポルシェ911にはスピードスターがなかったということ。考えたこともなかった…(すみません)。
一般的に販売されるモデルとしての993型スピードスターはなかったものの、過去にこのモデルは2台(正確には工場での修復の一環として再構築されたモデルがあるのでそれを含めると3台)だけ作られたことがあるとのこと。
作られた2台のうち1台は1995年にエクスクルーシブ部門によりフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(Ferdinand Alexander Porsche)氏の為つくられたグリーン色のもので、17位インチの軽合金ホイールとティプトロニックのギアボックスを備えた、カレラのボディをベースにしたもの(今は博物館に)。
そしてもう1台は1998年の最後の993カブリオレの1台をベースに2001年に作られたアメリカの俳優/コメディアンそしてポルシェのコレクターとしても知られているジェリー・サインフェルド(Jerry Seinfeld)氏のためのもの(18インチホイール、ターボワイド4Sモデル、シルバー色)。
そして今回イタリア出身で、今は主にミラノと中国で活躍されているデザイナーであるルカ・トラッツィ(Luca Trazzi)氏の為にポルシェがゾンダーヴンシュ・プログラムを通じて993型911スピードスターの3台目(正確には4台目)を作られたということが発表されました。
こちらのお車はカリフォルニアで開催される今年のモントレーカーウィーク(2024年8月9日~18日)でもお披露目されたとのこと。
1994年の993型911カレラカブリオレをベースにし、3年以上の年月をかけて作られたというこちらのお車。実際、制作される際にはスピードスターの実物大のデザインモデルも作ったりされたそう。
今回こちらの車をオーダーされたルカさんはデザイナーさんでもあることから、ご自身でドラフトやスケッチなどを描き込んだスケッチブックだったり、明確なプロジェクトアイデアを持たれていたとのことで、制作は大変であったもののポルシェの車をデザインして作り上げていくチームとは楽しく協力的に工程を進められたようです。
ワークスIDでポルシェの製造工程見学も
ここでまた1つ、知らなかったことが。
今回のプロジェクトがあまりに大きいものなので彼だけが特別なのかもしれませんが、今回のプロジェクト中にルカさんにはワークスIDというものが発行されていたとのことで、ポルシェ(工場)を何度も訪れることが出来ていたとのこと。
ゾンダーヴンシュしたらワークスIDもらえるのかな??いや、そもそもゾンダーヴンシュ出来ませんけど、なんだかワクワクする^^
ルカさんはこのワークスIDを使って、塗装工場で自分のスピードスターが作業される様子を見たりしたそうです。いいな~。そういうところまで入れちゃうなんて。
ちなみに塗装といえば、こちらのお車のボディカラーはOtto Yellow(オットーイエロー)と名付けられたPTS Plusカラーで、Ottoはルカさんの飼っているワンちゃんのお名前なのだとか。
リアリッドとフロントガラスがスピードスターの特徴とのことで、その周囲を囲むのは細い黒いフレームのみ。
サイドミラーは1960年代のスポーツカーのクラシックなデザインである黒い円錐形。
ライトは現代のポルシェに見られる4灯式のデイタイムランニングライト。
リアリッドのボディワークラインはルカさんがデザインされたとのこと。
ターボデザインの18インチ軽合金ホイールは黒で塗装、そこに細いラインがイエローで。
リアタイヤ前には黒のストーンガードがあるのですが、これは他のスピードスター世代の機能的なデザイン要素であり、かつ印象的な特徴であるとのこと。
ドアハンドルが黒かったりしてフロントスポイラーのエアインテークと調和。
スポーティな外観はゾンダーヴンシュの専門家が993型のフロントスポイラー、サイドスカート、リアフェンダーをモチーフに作られたそうです。インジケーター、テールライト、ライトストリップの外観は再解釈されたもの。
インテリアは黄色の装飾ステッチが施されたブラックレザーがメイン。ヘッドレストにはスピードスターのロゴが刺繍されています。
シートセンターには黄色と黒のチェック柄。このチェック柄はすべて手作業で仕立て、縫われているそうで、職人技の傑作とのこと。
同じパターンがレザー張りのフロントラゲッジコンパートメント、カーカバー、そしてお揃いで用意されたツーリングバッグにも施されているそうです。
ダッシュボード、センターコンソール、サイドブレーキレバー、シフトレバーに施されているのはカーボンエレメント。シートの背もたれもカーボン製。
この内側のハンドル部分、すごく可愛い^^↓
さらにこちらの車には「オットーイエロー」のイルミネーションでカーボン製ドアシルトリムに個別のロゴ付き。
ポルシェ・クラシックコミュニケーションマネジメント(PCCM)により、ナビとアップルカープレイを備えた最先端のインフォテインメントも搭載。
パワーウインドウのスイッチなども細部へのこだわりがあったり、ダッシュボードには金色のワンオフバッジも。
車の性能についてですが、この車のエンジン、シャーシ、ステアリング、ブレーキシステムは993型911カレラRSのものを採用されているとのことで、空冷式水平対向6気筒エンジンは3.8Lで221kW/300PSを発生。
ゾンダーヴンシュでポルシェがどこまで受け付けるのか…
今回のこの「ゾンダーヴンシュプログラムによって、ポルシェのモデルとして実質存在していなかった993型スピードスターを作った」というお話ですが…うーん、あの、すみません、正直なところ私はあまり感動できませんでした。
いやいや、もちろんこちらのお車はルカさんの夢であったお車でありそれを叶えられたことは素晴らしく、ルカさんの車を否定するつもりはまったくありません。
ただなんというか「PTSで色々なカラーの選択肢が広がった」とか「PTS Plusで自分の好きな色も作れるようになった」とか、ゾンダーヴンシュでちょっとカスタマイズした、オリジナルのロゴをつけたとかそういのは「個性」であったり「遊び心」であったりして、それはいいなって思うのです。
でも私の中で「ポルシェがモデルとして作っていないものをお金を出せば作ってもらえる」というのは、ちょっと違うというか。
それが出来ちゃうことになると、今後「お金はいくらでもあるから、とりあえずマカンのオープンカー作って」とかなんでもアリになってしまのではないかというか。
もちろん、すべての要望に対してはそもそもポルシェがOKを出さなければいけないですし、お金を積めばすべて受け入れてくれるというわけではないと思います。
今回も一応過去にすでに2台(3台)作られているものだからいいかという判断があったのかもしれません。
ゾンダーヴンシュの信条は『You dream it. We build it. (あなたが夢見るものを、私たちが実現する)』。
ポルシェがモデルとして出されていないものまでもを作れてしまうプログラムに対して「それはどうなのかな」と思ってしまった私ですが、それって自分自身がゾンダーヴンシュで完全なるワンオフカーを作ってもらえることがないと思っているからこそ言えることなのかな?
いきなりポルシェから「しょうがないなー、じゃあ特別になんでも好きにやっていいよ!」とか言われたら…好き勝手にやっちゃったりして(笑)。
出典:
◆(公式)911 Speedster built as a Sonderwunsch Factory One-Off
◆Porsche Builds A Ridiculous One-Off 993 Speedster For Obsessed Collector
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